Fukuta et al. (2023)

第二言語(L2)学習者の認知処理を調査する際に観察可能なパフォーマンスから得られる指標に基づいて分析を行うことがはらむ危険性について論じたある種のopinion paperです。論じている問題点は2つで,(1)存在論的実在性の基準を満たさないまま心理的変数を存在論的実在性として想定してしまうこと,(2)学習者の発話や作文のパフォーマンスに基づいて能力を評価することが認知過程を調べる上で不適切なこと,の2点を中心に論じています。これらの問題を取り上げることで,L2パフォーマンスの観察から想定される潜在的変数(具体的にいうとCALF)が現実には存在しないことを論証し,パフォーマンス分析による認知メカニズムの解釈の難しさについて論じています。また,これまでの研究実践の認識論的観点から生じるいくつかの問題(例えば,cognition hypothesisとtrade-off hypothesisのような仮説の二分化とその不確定性)についても取り上げています。最後に,L2パフォーマンスを扱う2つの代替的なアプローチを提案した上で,この一連の議論が今後の研究に与える影響についても議論しました。

Fukuta, J., Nishimura, Y., & Tamura. Y. (2023). Pitfalls of production data analysis for investigating L2 cognitive mechanism: An ontological realism perspective. Journal of Second Language Studies, 6, 95–118. https://doi.org/10.1075/jsls.21013.fuk