はじめに
関西大学外国語学部の学生さんで,3年次の専門演習・4年次の卒業演習(いわゆるゼミ)選びで,1ミリでも田村という選択肢を考えて私のウェブページに来た人がいたらぜひこの記事を読んでください。私の授業を履修していて,どんな人なんだろうと思われた方も読んでもらっても構いません。
まずは,1ミリでも興味を持っていただいてありがとうございます。シラバスを読んでからここに来られたのか,あるいはシラバスはまだ読まれていないのかわかりませんが,もしもシラバスを読んでいない方がいたら,とりあえずシラバスを読んでください。多分資料が配られているかな?と思います。見つけられない人は,「関西大学 シラバス」とかでぐぐるとシラバスの検索ページが出てくると思います。そこで「教員検索」で私の名前を検索すると,専門演習のシラバスが見れると思います。
また,以下の文章は一部私の過去のブログ記事の文章も含まれています。この記事を最後まで読んだ上でもし興味があったらこちらもぜひ読んでください。
田村はどんな人か(2024年4月3日追記)
ゼミのことを今まで一番最初に書いていて,そういう文章を書いている中で田村という人間はどんな人物なのか,全然書いていなかったな,ということに今さらながら気づいたので,それを一番最初のセクションにいれることにしました。とはいえ,私はこういう人だというのをここで書くのもどうかなということで,下記のページを御覧ください。
https://querie.me/user/tam07pb915
匿名で質問を受け付けるサービスをやっていて,その回答を見ると,結構私のことがわかるんじゃないかなとなんとなく思ったのです。学生さんにはたいして興味のない質問もあると思うので,質問の一覧をざーっと眺めてみて,その質問への回答が気になる,と思ったらそれを見てもらえるといいかもしれませんね。
あとはまあ上でも言及したブログとかももしかしたら私の「人となり」が表れているかもしれません。
私のゼミに対するスタンス
学問をやる
ゼミの活動を見ていると,活動系のことを大きく宣伝しているゼミも多いですし,むしろそういうゼミが人気を集めているようにも思います。学生にとって,その後の人生に役立つことが直感的にわかりそうなゼミを選ぼうとする気持ちも,昨今の就活事情を鑑みると理解もできます。それ自体を責める気もありませんし,結果として優秀な人材を世に送り出しているといえますからゼミの募集に誰も来ない教員よりもよほど学部,そして社会に貢献しているといえるでしょう。
そういったゼミを運営する先生やそういったゼミに入る学生が学問を軽視しているとは言いません。ただ,やはり私はやっぱり研究者でいたいと思っています。私は良くも悪くも学問の専門家であり,もちろん産学連携とか地域貢献も大学の大事な役割ではあるとはいえ,それが自分の専門であるというようには考えていません(しそこに今から自分のリソースを投じることが有益であるともあまり思えない)。よって,私は「学問」をゼミではやりたいと思っています。その時の「学問」とは何かというと,「心理言語学」であるとか,「第二言語習得」のようなものです。私が過去にどういった研究をしてきたのかをざっと見ていただくと,その研究自体をよく理解できなかったとしても,なんとなくぼんやりと自分が興味の有りそうなことかどうかというのはわかるんじゃないかなと思います。以下のリンクから,私がこれまでにやった研究の日本語の概要が読めます。
統計やプログラミング言語にふれる意味
※2023年度から,外国語学部のカリキュラム改編で「データサイエンス発展(データ解析)」という授業が開講されるようになります。この授業で,私がゼミでやろうと思っていた統計とかプログラミング言語についてを扱うことができるようになったので,2023年度からはこうした内容をゼミの中でメインで扱わないことにしました。よって,統計やプログラミング言語に興味のある方は前述の「データサイエンス発展(データ解析)」を受講してください。1年次配当の導入科目となっていますが,2, 3, 4年次に受講することも可能です。よって,このセクションで書かれていたことはゼミを考える人の参考にならなくなったと思いますので,下記のページに移動させました。
ただし就活で役に立つかは知りません
私の個人的な信念として,大学教育が学生の就職活動に有益な貢献をすることを目的にすべきであるとは考えていません。よって,「わかりやすい」就活アピールができることを専門演習と卒業演習にもとめている人は,他の先生のゼミに行かれると良いと思います。就活でゼミでやっていることをアピールできるのかどうかというのは学生のみなさんが考えることで,私が考えたものを与えるのではないと思っています。もちろん相談されたら私も一緒に考えることはします(企業の就職活動の経験はないですけど)。
個人的には,私のような大学教員がやるべきことは,というか私の所属学部の教員のような人文系の研究者がやるべきことは,自分たちが授業で扱うことがどうやって社会人になったときに役に立つかを語ることではなく,私たちの学問はこんなに面白いし,学問に真摯に向き合うことそれ自体に意味がある,そしてそのことは君たちの今後の人生を豊かにする,ということを大真面目に語ることだと思っています。
ゼミ生の就活に対するスタンス(2024年1月12日追記)
今年度,田村ゼミの第一号が卒業することになります。この記事を書いたときにはまだゼミ生が就活するということを経験していませんでした。実際にゼミ生が就活するのを見守っていると,自分が当初思っていたよりも遥かにコミットしていたような気がします。例えば,ゼミ生が面接で苦戦していたので面接対策をしました。どういう質問に対してどのように答えるのかをまずゼミ生に言ってもらい,それに対して,同じエピソードでもこういう伝え方にしたほうがアピールになるんじゃないかな?とか,むしろこういうところを面接官は聞きたいんじゃないかな?とか。私も一応「オトナ」ですから,「何が求められているのか」みたいなことは学生と同じかあるいはそれ以上わかるのだなと思いました。最終的には,模擬面接をビデオ撮影して見返しては気になったポイントで止めてコメントしたり,あるいは学生にその時にどんな事を考えていたのか,もっとうまく受け答えするために何が必要なのかを考えてもらったりもしました。
エントリーシートを読んであげるみたいなことはしませんでしたが,文章を書くことを仕事の一つとしているので,文章の添削は色んなジャンルのものに対応できる能力は私自身それなりのレベルにあるかなと思います。大学院生のときには留学生のエントリーシート添削もしましたし,知り合いのウェブ原稿記事の推敲を手伝ったりしたこともあります。ゼミ生が大量にいたら一人ひとり丁寧にサポートするのはかなり難しいでしょうが,田村ゼミは不人気なのでおそらく心配無用でしょう。大勢でワイワイというよりは,こじんまりとという感じなので,そういうのも含めて自分が向いていると思ったらぜひ,という感じですね。というわけで,田村は意外とゼミ生の就活も気にしているのであった,という追記でした。
就職も大事だけど
学部,ひいては大学としては,卒業していく学生たちが「社会」で活躍することを対外的に示したいというのは現実的な話として理解できます。そして,それがいわゆる就職率だとか,就職先の企業名だとかいうものにわかりやすく現れるのだということも理解できます。また,大学についての評価を下す側の人たち,そして大学を選ぶ側の人たちも,それを一つの判断材料にしているという現実も大いにあるでしょうし,そこを一切無視していては大学の運営は成り立たないでしょう。しかしそれはあくまで「建前」的なものであるということを教員が思っていなければ,入ってくる学生も,そして在籍している学生も,それが大学に求められることであるという態度でカリキュラムをこなすかもしれません。私はそれは間違っていると思っています。
「就職」というものをゴールとして設定することは,その先の学生の人生については君たち次第だという突き放した態度のようにも思います。今は,最初に就職した先でずっと退職まで働き続けるような時代でもありません。最初に就職した先が名の知れた「良い」企業であればその後の人生の幸せが保証されるわけでもなければ,就職が決まった時点ではその学生が満足していたとしても実際に働いてみたら全然幸せではなかったということだって当然のようにあるはずです。
また,就職がうまくいかなければ「失敗である」というメッセージを暗に学生に伝えてしまうことになるような気もしています。私は,それはあまり好ましいことであるとは思いません。それは,ある意味では先の見えない不安な状況に学生を追い込むような面もあるかもしれません。そして,そのことは一見すると学生に意地悪をしているように見えるかもしれません。
しかしながら,私は,「そうじゃないんだよ」ということを学生の皆さんには伝えたいです。そういう不安な状況とか,先の見えない不安とか,あるいはある意味での人生の挫折を味わうような状況になってしまったときに,そこで自分で考え,決断をし,そして勇気を持って自分の人生を切り開いていけるようになってほしいのです。大学教育は、そしてゼミはそのためにあるというのが私の考えです。
長い目で見たい
就活だとかいうことよりも大事なことはもっと長いスパンでの学生の人生の幸福です。大学で学ぶことというのは,そういう人生の財産となるべきものであるはずです。というよりも,教育というのはそうした営みのことだと思います。どのような学校種であったとしても,出口のすぐ先の未来だけを見据えるのではなく,その後に続く長い人生のことを見据え,そして願わくばそこを見つめさせることができるような場所が教育の場であってほしいと思います。理想論だという一言でこのことを片付けてしまうのは簡単ですが,それでもそうした理念的なことを大真面目に語ることが教育者としての自分自身の役割だというようにも思っています。
それをやめてしまったら,「社会」から要請されるままの,そして「政治」から要請されるままの機関になってしまうような気がします。それは本当に大学のあるべき姿なのかというと,私としてはそうではないと言いたいです。田村はこういう考えを持った教員であるということを理解してもらえるといいのかなと思います。
ただし,学生の置かれた状況も理解してます(2022年8月2日追記)
上で就活について書いたことは,まあ本音ですが,とはいえ自分が今の立場にいるからこそ言える話であるという矛盾というか暴力性みたいなものは一応理解しているつもりです。つまり,私は任期のない大学教員というポジションを運良く手に入れることができたので,大学で学ぶことと就職活動とか社会で役に立つかどうかを直接的に結びつける必要はない(むしろそうしないほうがいい)とか言えるのであって,立場が不安定な学生がそのように考えること,また考えることを求めることは酷だろうということです。それは理解しています。ですから,学生が就職できるかどうかにまったく興味がないというわけではありませんし,だからこそ,「相談されたら私も一緒に考える」と上で書いたわけです。
ただ,繰り返しになりますが私自身に企業就職活動の経験がないですし,これまでに(少なくともこの文章を書いている段階では)卒業生を送り出したこともありませんので提供できる情報がありません。したがって,就職の相談については関西大学にはキャリアセンターという学生の就職支援を専門的に扱う部署がありますので,そちらのサービスを利用してもらうのがいいと思っています。
ちなみに,就活についてはこういう記事も過去に書きました。
就活で「AIに代替されるぞ」って言われてぐうの音も出なくなってしまう外国語学部の学生さんへ
こういう人が合うかな?
知的探究心がある人
これにつきますね。とにかくわからないことを知りたいという意欲がある人,そしてそれを追究したい人と一緒に学びを深めていきたいです。シラバスに書いたキーワードのうちで,
- 言語習得
- 言語知識
- 意識
- 言語処理
について疑問を持っている人は学ぶことがたくさんあると思います。言語そのもの,そしてヒトの頭の中がどうなっているのか,ということが私が追究しているものですので,言語習得の中でもそこにフォーカスした内容になります。逆に言うと,指導法や学習方法などに興味のある人は別の先生のゼミに行かれる方が学びが多いかなと思います。私も過去に指導法に関わる研究をしたことがありますし,タスク・ベースの言語指導(Task-based Language Teaching)についてはずっと追いかけています。ただ,ゼミではメインとしてはそれは扱わないつもりです。教職科目の英語科指導法の授業とか担当させてもらえたらそっちでやれたらいいなぁなんて思うのですが,まあ私が願ったところでできるようなことでもないのでね。
言語習得とはつまり人はどのように言語を学習しているのかということです。ヒトの学習の中でも,言語の学習というのは多くの謎に包まれています。その謎を解明する営みの入り口あたりを案内できたらいいなと考えています。その中で,学習を考えるということは知識を考えることにもつながります。どんな言語の知識をヒトは持っているのかということですね。注意が必要なのは,このときに「どうやったら効率的に学習ができるのか」というような問いは関係ないということです。ヒトがどのように学習しているのかが明らかにならなかったとしても,効率的な学習方法を明らかにする事はできるからです。
意識というキーワードについては,以下の記事を読んでもらえるといいかもしれません。
言語処理というのは,ヒトがどのように言語の理解や産出を行っているのかに関わることですね。例えば次のような研究です。
ガーデンパス効果と呼ばれる現象を応用しています。文の構造解析の曖昧性がある場合に,ある一方の解釈をすると途中で解析が破綻してしまうというようなことです。
While the king and the queen kissed/left the baby read the book in the bed.
のような文があるときに,kissedの後ろのthe babyをkissedの目的語だと解釈すると,readという動詞が出てきたときにその主語がないので「あれれ?」となりますよね。そこで,the babyはkissedの目的語ではなく,readの主語だというように解釈し直すことになります。ただし,実際にはkissedというのは「相互作用動詞」(reciprocal verb)と呼ばれる特殊な動詞で,意味上の主語が複数である場合には後ろに目的語が来るような解釈はされにくいんです。つまり,the king and the queen kissedまで読んだときに,「キスしあっている」という解釈がされます。よって,the baby readの部分で解釈ができなくなることがないんですね。一方で,leftの場合はkissedとちがって「〜しあう」という意味解釈を持たないので,left the babyというように動詞句を作ってしまいがちです。ただし,このような「〜しあう」の解釈はthe parents kissedのような場合には生まれにくく,A and Bという形になっていないと後ろの名詞句を目的語だと解釈してしまいます。このような現象が,第一言語話者だけではなく第二言語話者でも起こるということを示したのが上の2019年の論文です。なんだかややこしい話のように感じたかもしれませんが,こういうヒトがどうやって言語を理解しているのかというようなことに興味がある人はきっと楽しくゼミに参加できるんじゃないでしょうか。
ちなみに,4年次の卒業演習では「卒業プロダクト」というのを作成してもらうことになっていますが,それについては別の記事にしてありますのでそちらをお読みください。数は少ないですが,過去の卒業生の卒業プロダクトのテーマも書いています。面談を希望される方は,面談のときに過去の卒業生の卒業プロダクトそのものをお見せすることもできますので希望があればお伝えください。また,全然具体的ではなかったとしても,こういうものに興味がある,というのをぼんやりとでもお伝えいただけると,私がそれに応えることができそうかをお話できると思います(2024年3月19日追記)。
大学院に進学したい人
外国語教育学研究科がありますよね。もちろん,現実的には学部から修士課程に上がる学生の数は数えるほどで,そこから博士後期課程までとなるといるかいないかレベルで,後期課程はほとんど外部から人が来るというのが現実です。ただ,そこに1ミリでも興味があるのだとしたら,そこに確実につながるようなものを提供できると思います。まあ私は大学院を受け持っていないので(正確に言うと,大学院で修士課程・博士課程の指導教員になる資格がまだないので),大学院に進学なさったところで私が指導することはないわけですが…。誤解を招くといけないので言っておきますが,別に大学院に進学したい人しか履修しないでくださいとかそういうことではまったくありません。学術的なことに興味がある人であれば誰でもwelcomeです。
ゼミに入るほどではないかもしれないと思った方(2024年3月19日追記)
ゼミはなんか違うかな〜という方でも,言語の認知プロセスについて興味がお有りの方は,秋学期金曜3限の「心理言語学研究」という授業をぜひ履修してみてください。2024年度より田村がこの授業を担当することになりました。
おわりに
この記事を読んで,なんか違うなと思った方は,残念ですけど別のゼミで頑張ってください。もしも,もっと詳しく話を聞いてみたいと思った方がいたら,ぜひ一度お話しましょう。気軽にメールください(連絡先はこのウェブサイトのHomeに書いてます)。メールでやりとりしてもいいですし,研究室に来ていただいても,zoomで話すのでもいいです。私の研究室に来ていただければ,シラバスに参考書として載せたものや教科書として載せているものをお貸しすることもできます。
シラバスには「面談」と書きましたが,これは「面接」ではないですので誤解のなきよう。私が学生を選ぶわけではないですし(人数の上限超えたら選ばないといけませんけどまあそんなことは起こらないと言い切ってもいいくらい可能性が低いことなので)。一度も会ってお話したことがない状態でゼミを選んで,それで「やっぱり違ったわ」なんて思われたままゼミに参加されるのは学生のみなさんにとっても私にとっても不幸ですので,そういったミスマッチをなくしたいという意図で「必ず面談すること」とシラバスには書きました。
この記事も,追記や加筆修正することがあるかもしれませんが,その時はその都度この下に加筆修正した日時を書いておきます。とりあえず,現時点で私が伝えておきたいと思ったことは以上です。
加筆・修正の記録
2022年8月2日
「ただし,学生の置かれた状況も理解してます」のセクションを追加しました。
2023年1月23日
統計やプログラミング言語にふれる意味のセクションを削除しました。
2023年2月22日
知的探究心がある人のセクションに,卒業プロダクトについての記述を追加しました。
2024年1月12日
「ゼミ生の就活に対するスタンス」というセクションを追加しました。
2024年3月19日
「ゼミに入るほどではないかもしれないと思った方」というセクションを追加しました。
2024年4月3日
「田村はどんな人か」というセクションを追加しました。
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