Tamura et al. (2023)

L2英語学習者が英語母語話者のように効率性を重視した数の一致処理を行っているかどうかについてを検討した論文で,Tamura et al. (2021)の追研究の位置づけです。Tamura et al. (2021)では,L2英語学習者は母語話者と違って,there | is/are | a | cat | and | とandを読んだ際に,複数一致の文(e.g., there are a cat and….)の読みが早くなる傾向が見られることを明らかにしました。そして,それは”A and B”のような等位接続名詞句は常に複数であるという明示的な知識の影響である可能性を指摘しました。今回は1つ目の実験で,there is/are |a cat and a dog| behind the sofa.のようにフレーズ単位での自己ペース読み課題を行い,単語単位の呈示ではなくフレーズ全体として等位接続名詞句をどう処理しているかを調査しました。結果として,やはりL2学習者は複数の読みが早くなることが明らかになり,there構文内の等位接続詞を複数として処理していることがわかりました。2つ目の実験ではTamura et al. (2021)同様に再度単語単位呈示での自己ペース読み課題を行いました。Tamura et al. (2021)では呈示順の影響が考慮されていなかったためです。例えば,andの後ろも名詞句が後続するとは限りません(e.g., there is a pen and it is broken)し,理論的にも,数の一致を再解釈する可能性があるとすれば2つ目の名詞句を処理した際であると仮定されています。したがって,Tamura et al. (2021)でandの時点で複数の読みが早くなった原因は,実験中にthere構文内に等位接続名詞句が生起する刺激文に晒されたことで複数一致の読みを予測するようになったからかもしれないからです。2つ目の実験の結果,there | is/are | a | catの段階では複数一致で遅れがみられ,直近の一致は単数で行う効率優先の処理が行われている可能性が示唆されました。ところが,この影響は実験が進むにつれて薄れていき,逆に実験が進むにつれて2つ目の名詞の領域で複数読み条件の読解時間が早くなる傾向があることが明らかになりました。これらの結果から,直近の動詞と名詞で数の一致を完結させる効率駆動型処理はL2英語学習者にも利用可能であることが示唆されました。しかしながら,2つ目の名詞句で一致を再解釈し直す現象はL2英語学習者に特有の現象であり,この原因として実験中に等位接続名詞句が埋め込まれたthere構文のインプットを受けることによって学習者の持つ等位接続名詞句は常に複数であるという明示的な知識が活性化され,それが言語処理に影響している可能性を指摘しました。

Tamura, Y., Fukuta, J., Nishimura, Y., & Kato, D. (2023). Rule-based or efficiency-driven processing of expletive there in English as a foreign language, 61, 1577–1606. International Review of Applied Linguistics in Language Teaching. https://doi.org/10.1515/iral-2021-0156 [Author Manuscript]

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Tamura et al. (2021)

L2英語学習者が英語母語話者のように効率性を重視した数の一致処理を行っているかどうかについてを検討した論文です。いわゆる存在のThere構文内に生起する等位接続句(e.g., a cat and a dog)とBE動詞をターゲットとして扱いました。英語母語話者は,There構文内に等位接続句が現れると単数で一致することが知られています(e.g., there is a cat and a dog…)。これは等位接続句全体を処理するまで数の一致を保留するほうが処理効率が悪いからだと言われています。L2学習者がこのような文をどう扱うのかを調査するために2つの実験を行いました。まず,実験1でオフラインの誤り訂正課題を行い学習者の明示的な文法知識を測定しました。結果として,学習者はThere is a cat and dog…のような単数一致の文を複数一致に書き換える傾向が強くありました。また,等位接続句が主語位置に生起する場合は複数一致を正しいと判断していました(e.g., A cat and a dog are…)。実験2では,単語単位で提示される自己ペース読み課題を行い,母語話者とL2学習者のオンラインの文処理を比較しました。すると,L2学習者はthere | is/are | a | cat | and | とandを読んだ際に,複数一致の文(e.g., there are a cat and….)の読みが早くなる傾向が見られたのに対して,英語母語話者はそのような傾向は見られませんでした。このような母語話者とは異なるある種非効率的な文処理は,”A and B”のような等位接続名詞句は常に複数であるという明示的な知識が文処理中に干渉するのではないかと結論づけました。

Tamura, Y., Fukuta, J., Nishimura, Y., & Kato, D. (2021). L2 learners’ number agreement in the expletive there constructions: Conjoined NP always plural? Reports of 2020 Studies in The Japan Association for Language Education and Technology, Chubu Chapter, Fundamentals of Foreign Language Educational Research Special Interest Group (SIG), 2–23. [PDF] (Password to open the PDF: kisoken202001)