Kobayashi et al. (2019)

この研究では,スピーキングタスク中の自己修正(self-correction)行動中に学習者の注意がどの側面に向いているのか,そしてそれはタスクの認知的な負荷の影響を受けるのかという点を調査しました。認知的負荷の高低を操作した2種類の地図タスクを用意し,学習者はその課題に取り組んだあとに刺激再生法によるインタビューを受けました。インタビューのコメントを概念化,語彙選択,文法化,音声化の4つのカテゴリに分類し,自己修正中の認知プロセスを分析しました。その結果,負荷の高いタスク中には文法化よりも概念化を行う頻度がより高かったのに対し,負荷の低いタスクではそのような違いが見られなかったことが明らかになりました。また,熟達度の高低によって概念化の頻度に差は見られなかったものの,熟達度の高い学習者は語彙よりも文法面により注意を向けることができることが示唆されました。

Kobayashi, M., Iwatani, M., Tamura, Y., & Abe, D. (2019). Cognitive processes during self correction in L2 oral production: Comparison between tasks with a high and a low cognitive demand. LET Journal of Central Japan, 30, 31–44

Nishimura et al. (2018)

NICT-JLEコーパスから得られたデータを用いて,第二言語学習者の口頭産出パフォーマンスをネットワーク分析という手法で記述した論文です。これまでは,学習者のパフォーマンスは言語データから算出される様々な指標を正確さ,複雑さ,流暢さなどの観点から分析することが試みられてきましたが,これらの指標の関係性は学習者の能力に依存して変化する複雑な系をなすと考えられます。そこで,複雑系理論に基づくネットワーク分析を行い,上位群と下位群ではネットワークにおける中心性の指標が異なることや,指標間の関係性も異なることなどを示しました。これらの結果は,一意的に変数を取り上げてその指標の関係性や変化を議論する危険性を示唆しており,ネットワーク分析という手法がこの点で有用性があることも示していると考えられます。

Nishimura, Y., Tamura, Y., & Fukuta, J. (2018). Network structures in L2 oral performance: A learner corpus study. Annual Review of English Language Education in Japan, 29, 113–128. [Full Article]