Tamura (2023)

日本語を第一言語とする英語学習者を対象に,英語の数表示の理解を調べた研究です。一番の主張は,複数形形態素の習得を,「意味と形式のマッピングがなされているのか」という観点に絞って検討してみないと,習得の難しさを明らかにすることはできないのではないか,ということです。実験のロジック自体はTamura (2023)と同じで(実は順番的にはこっちの実験のほうが先にやってましたけど色々な事情でこちらの研究のほうがあとに出版されることになりました),自己ペース読み課題中に語数の判断を求める課題です。こちらの実験ではTamura (2023)といくつか違いがあります。1つ目は,1語提示条件の名詞に(a)普通名詞の複数形(e.g., cats),(b)集合名詞の単数形(e.g., family),(c)複数形優位名詞(e.g., residents)の3つの条件を入れてあることです。2つ目は,2語提示の単数名詞句で逆のことが起こるかどうかという条件もあることです。つまり,the cat, a cat, one catのようなものを2語と判断するのが,the catsという複数名詞句を2語と判断するよりも遅れるのか,ということを調べました。様々な先行研究では数の有標性という概念を使い,単数が複数には干渉しにくいということが言われているので,そのことを調べたのと,aやoneのように単数を明示する要素が含まれている場合に干渉が起こるかということを調べました。結果は,前述の(a)から(c)のすべての複数形の1語を判断するのは単数形の1語を判断するよりも統計的に有意に遅れが見られました。単数形を2語と判断する条件では,one catのようにoneがついている場合には遅れが見られました。複数形名詞の語数判断の遅れは,文処理中に名詞句に複数の意味が載っている(形式と意味のマッピングがされている)ことを示唆しています。つまり,先行研究で数の一致処理に複数形形態素が絡んでいるような場合に見られる一致の誤りへの非敏感性(insensitivity)は複数形形態素の処理が出来ていないとか,そこに意味が載っていないということではなく,一致という処理に困難を抱えている可能性が高いということです。単数形名詞の場合には,oneがついている場合には遅れが見られた(ちなみに母語話者はこれ遅れません)ので,学習者に特有な語彙の意味に頼った処理の可能性があるということで議論しています。

Tamura, Y. (2023). Is cats one word or two? L2 Learners’ processing of number marking in English from the viewpoints of form–meaning mapping. Second Language Research. https://doi.org/10.1177/02676583231188933 [Author Manuscript]

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Tamura (2023)

有生性階層(Animacy Hierarhcy)に基づき,言語によって名詞の複数形を許容する程度が異なると言われています。日本語は有生と無生の名詞を区別しており,後者は英語と異なり,複数形の標識が付与されにくくなっています(例:?本たち)。このような違いは,日本語を第一言語とする英語学習者にとって複数形形態素の習得を困難にする原因となる可能性があるのではないかという仮説を立てました。本研究では,文処理中において有生性が英語の複数形形態素の処理に与える影響について検討しました。実験では,34名の日本語を第一言語とする大学生英語学習者を対象に,移動窓方式の自己ペース読み課題を実施し,読解中の任意の区域で単語数が1個か2個かの判断を求めました。この課題のロジックは,複数形の名詞を1語と判断するのに要する時間は,単数形の名詞を1語と判断するよりも複数という名詞に付与された情報の干渉によって長くなるであろうという予測に基づいています。もし有生性が重要であれば,日本語では複数形になりにくい無生物名詞に対してはそのような干渉を受けないのではないかと予測しました。しかしながら,有生名詞,無生名詞のいずれにおいても学習者は干渉効果を見せ,複数形の際に反応時間が長くなることがわかりました。したがって,有生性階層に基づく予測が支持されませんでした。論文中では,なぜこのような結果になったのかについても議論しています。

Tamura, Y. (2023). Investigation of the relationship between animacy and L2 learners’ acquisition of the English plural morpheme. Journal of Psycholinguistic Research, 52, 675–690. https://doi.org/10.1007/s10936-022-09915-2 [Read Online]

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Tamura et al. (2023)

L2英語学習者が英語母語話者のように効率性を重視した数の一致処理を行っているかどうかについてを検討した論文で,Tamura et al. (2021)の追研究の位置づけです。Tamura et al. (2021)では,L2英語学習者は母語話者と違って,there | is/are | a | cat | and | とandを読んだ際に,複数一致の文(e.g., there are a cat and….)の読みが早くなる傾向が見られることを明らかにしました。そして,それは”A and B”のような等位接続名詞句は常に複数であるという明示的な知識の影響である可能性を指摘しました。今回は1つ目の実験で,there is/are |a cat and a dog| behind the sofa.のようにフレーズ単位での自己ペース読み課題を行い,単語単位の呈示ではなくフレーズ全体として等位接続名詞句をどう処理しているかを調査しました。結果として,やはりL2学習者は複数の読みが早くなることが明らかになり,there構文内の等位接続詞を複数として処理していることがわかりました。2つ目の実験ではTamura et al. (2021)同様に再度単語単位呈示での自己ペース読み課題を行いました。Tamura et al. (2021)では呈示順の影響が考慮されていなかったためです。例えば,andの後ろも名詞句が後続するとは限りません(e.g., there is a pen and it is broken)し,理論的にも,数の一致を再解釈する可能性があるとすれば2つ目の名詞句を処理した際であると仮定されています。したがって,Tamura et al. (2021)でandの時点で複数の読みが早くなった原因は,実験中にthere構文内に等位接続名詞句が生起する刺激文に晒されたことで複数一致の読みを予測するようになったからかもしれないからです。2つ目の実験の結果,there | is/are | a | catの段階では複数一致で遅れがみられ,直近の一致は単数で行う効率優先の処理が行われている可能性が示唆されました。ところが,この影響は実験が進むにつれて薄れていき,逆に実験が進むにつれて2つ目の名詞の領域で複数読み条件の読解時間が早くなる傾向があることが明らかになりました。これらの結果から,直近の動詞と名詞で数の一致を完結させる効率駆動型処理はL2英語学習者にも利用可能であることが示唆されました。しかしながら,2つ目の名詞句で一致を再解釈し直す現象はL2英語学習者に特有の現象であり,この原因として実験中に等位接続名詞句が埋め込まれたthere構文のインプットを受けることによって学習者の持つ等位接続名詞句は常に複数であるという明示的な知識が活性化され,それが言語処理に影響している可能性を指摘しました。

Tamura, Y., Fukuta, J., Nishimura, Y., & Kato, D. (2023). Rule-based or efficiency-driven processing of expletive there in English as a foreign language, 61, 1577–1606. International Review of Applied Linguistics in Language Teaching. https://doi.org/10.1515/iral-2021-0156 [Author Manuscript]

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Tamura et al. (2021)

L2英語学習者が英語母語話者のように効率性を重視した数の一致処理を行っているかどうかについてを検討した論文です。いわゆる存在のThere構文内に生起する等位接続句(e.g., a cat and a dog)とBE動詞をターゲットとして扱いました。英語母語話者は,There構文内に等位接続句が現れると単数で一致することが知られています(e.g., there is a cat and a dog…)。これは等位接続句全体を処理するまで数の一致を保留するほうが処理効率が悪いからだと言われています。L2学習者がこのような文をどう扱うのかを調査するために2つの実験を行いました。まず,実験1でオフラインの誤り訂正課題を行い学習者の明示的な文法知識を測定しました。結果として,学習者はThere is a cat and dog…のような単数一致の文を複数一致に書き換える傾向が強くありました。また,等位接続句が主語位置に生起する場合は複数一致を正しいと判断していました(e.g., A cat and a dog are…)。実験2では,単語単位で提示される自己ペース読み課題を行い,母語話者とL2学習者のオンラインの文処理を比較しました。すると,L2学習者はthere | is/are | a | cat | and | とandを読んだ際に,複数一致の文(e.g., there are a cat and….)の読みが早くなる傾向が見られたのに対して,英語母語話者はそのような傾向は見られませんでした。このような母語話者とは異なるある種非効率的な文処理は,”A and B”のような等位接続名詞句は常に複数であるという明示的な知識が文処理中に干渉するのではないかと結論づけました。

Tamura, Y., Fukuta, J., Nishimura, Y., & Kato, D. (2021). L2 learners’ number agreement in the expletive there constructions: Conjoined NP always plural? Reports of 2020 Studies in The Japan Association for Language Education and Technology, Chubu Chapter, Fundamentals of Foreign Language Educational Research Special Interest Group (SIG), 2–23. [PDF] (Password to open the PDF: kisoken202001)

Tamura et al. (2019)

本研究では,while the king and the queen kissed/left the baby read the book in the bedのようなガーデンパス文を用いて数の処理の問題を検証しました。相互作用動詞(e.g., kiss)の意味上の主語が複数であると解釈されれば,動詞直後の名詞句が自動的に主節の主語であると解釈されるため,ガーデンパス効果は発生しません。この現象が英語母語話者のみならず日本語を第一言語とする英語学習者にも見られるということを明らかにしたのがこの研究です。この結果は,A and Bという名詞句を概念的に複数として表象していることを示しており,この点においては第二言語学習者も英語母語話者と同様の処理が可能であると言えます。

Tamura, Y., Fukuta, J., Nishimura, Y., Harada, Y., Hara, K., & Kato, D. (2019). Japanese EFL learners’ sentence processing of conceptual plurality: An analysis focusing on reciprocal verbs. Applied Psycholinguistics, 41, 59–91. doi:10.1017/S0142716418000450 [Author Manuscript] [Read Online]

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